この国には主に二つの街がある。
街全体が賑わっている所、住宅街のような所、同じ国とは言え、設えなどはその町の文化を反映しているのか趣が異なる部分も多い。
それぞれによい所があり、また個々により好みがある。
この街に前に来たときにはこんなんじゃなかったのよ。
いつからか半分以上がご高齢の方の街になっていてね。給仕はみなそちらの方に御付きになるから、私達は彼らに敬いを以ってこうして隅っこで静かにしてるだけなの。
と彼女は微笑んだ。
平均年齢の高い街のようだけれど…とは思っていたが、何人かここを訪れたことがある人は一様に同じことを話す。
ここはこの間の街とは違い、昼夜を問わずそう賑わう事もなく、夜になると人出も少ない。夜にはラウンジも閑散としていて、真夜中の夜道は郊外かと思うほど静寂に包まれている。
ご高齢の方々は食事時になると、メインダイニングでお行儀よくナプキンをなされる方が多い。
静かに椅子や車椅子に座っていること
決められた時間に眠る事
たくさん寝ていること
静かに食事をとる事…
マナー講師が、彼らに厳しくレクチャーしていたっけ…。
若者たちは自宅で自由に食べることを好んでいて、あまりここへは訪れない。
せっかく訪れたのだからと、メインダイニングの隅の方で食事を楽しんでいた。
故郷に帰った後、何気なくテレビで流れる番組を見てメインダイニングの彼ら達の事を思った。
きっと、sakoujyuという国へゆく支度をなさっていた方もいらしたのだろう…。
より静かな人材が尊ばれるという国…か…。
去来する複雑な思いを噛みしめた。